我が家の価値基準
暮らす人それぞれに「暮らしのカタチ」があります
暮らしごこち物語

Case 03. 我が家の価値基準

⻑野県安曇野市

移住の理由

8⽉24⽇、時計は午前10時23分を指している。
盆も先週過ぎて、気持ち的には夏の終わりを感じているが、気温は相変わらず⾼いままだ。
今朝は早い時間から⽗と⺟は登⼭を楽しみに上⾼地⽅⾯に出かけている。
今⽇は快晴。北アルプスの⼭々が⻘空に映えて美しく輝いて⾒える。
私たち家族が安曇野の地に引っ越してきたのは昨年の3⽉終わり頃だった。
もう1年半という時間が経つ。
元々は関⻄の⽣まれ。
妻も関⻄の⽣まれで、学⽣時代からのお付き合いで結婚した仲だ。
学⽣の頃から⾃然が好きで、特に⼭登りは定期的にやっていた。

Olympus digital camera

昆⾍や植物にも興味が深く、出かけた先で珍しい⾼⼭植物などを⾒つけると写真に収めて楽しんでいる。
信州への移住を考え始めたのは、結婚して少し経った頃のことだった。
元々信州へは登⼭でよく訪れていたので、⼭の近くで暮らしたいという思いはあった。
⾃分の⼈⽣をどこで⽣きるか、どんなふうに暮らしたいか。
妻と私はタイプこそ違っても、価値観の多くを共有していたため、話は⼀気に進んだ。
⼭の近くで暮らしたいから、仕事も変えて転職する。
どんな優先順位で⽣きているのだと聞こえてきそうだが、ワクワクが⽌まらなかった。
そして、安曇野という地を安住の地に決めた。

Olympus digital camera
螳画寐驥主ク・img 6507

庭づくりの⽇々

⼦供というものはじっとしていない。
さっきまで昆⾍図鑑を広げて⼀⽣懸命昆⾍について解説してくれていたかと思うと、
「パパ、お野菜⾒に⾏こ!」と私の⼿を掴んで引っ張る。
「いいよ」私は答え、息⼦はサッと⽞関に回って靴を履き、元気に庭へ飛び出していく。
ウッドフェンスにぐるりと囲まれた庭はおよそ40坪ほどで、その⼀⾓に囲いを作り菜園にしている。
ズッキーニ、ピーマン、ミニトマトなど緑の葉が陽に照らされ、鮮やかな⾊を見せている。
しばし息⼦と野菜の成⻑具合を観察する。
「トマトはもう⾷べられるかな」
「ズッキーニの⾚ちゃんができてるよ」
「元気に育ってるねー」と家事を終えた妻が庭に出てくる。
私も妻も共通の趣味は⼭登りと⾃然、⽣き物に触れること。
できる限り⾃分たちの⼿でやろうと話し、かなり気合を入れて庭づくりに着⼿したのだ。

⼤変だったのは、菜園作りのための⽳掘りだ。
少し掘ると⼤きな⽯がゴロゴロ出てきて、思うように進まない。そして重い。
結局、2tトラック1台分ほどの⼟と⽯を掘り出すことになった。
昨年の春からほぼ⼀年がかりで整備したといってもいいくらいだ。
まず庭の中にシンボルツリーとなるナナカマドを植えた。
そして、三⾓形のバランスを考えながら他の樹種の庭⽊も配置。
さらに、⽞関脇から庭へ至る要所には⼩型の樹⽊や⼭野草のような植物を置いた。
しっかり根付くことを祈りながら、理想的な庭の景観が完成するのは、きっと5年くらい先だろうと想像している。

薪ストーブライフ(ある冬の朝)

午前4時30分。外気温は氷点下8度。
あたりはまだ夜の闇と静けさに包まれている。
自然と目が覚めた私は、寝室からそっと起き出した。
金曜の夜は早く寝室に入り、早々に眠りにつく。そして週末の朝は、毎週こんな時間帯から動き始めるのが習慣になった。
リビングには、昨夜の暖の余韻が少し残っている。
なぜこんなに早起きするのか――それは、薪ストーブにあたりながら読書をするためだ。
「何もわざわざ暗いうちから…」「本はいつでも読めるのに…」そんな声が聞こえてきそうだが、自分にとって心地よい時間帯というものは誰にでもあるものだ。
憧れ続けてきた薪ストーブ。
火をつけることから、儀式のように所作を楽しむ。
薪は前日に土間に持ち込んである。冷えた屋外から持ってきた薪では火がつきにくいから、あらかじめ室内で温めておくのだ。
2〜3センチほどの太さの焚き付け用の木をふた握りほど用意する。
さらに8センチほどの太さの薪と、10センチほどの太さの薪を10本ほど並べる。これで午前中は持つだろう。
薪ストーブの熱は不思議なもので、身体の芯が温まるようだ。
ファンヒーターやエアコンの暖かさは、どちらかというと表面的に感じるものだ。
家全体に、ずっと暖かさが続ている。

炎が落ち着いていく様子を時折眺めながら、リビングの椅子に腰かけ、昨日から読みかけていた本を手に取る。
ストーリーに没頭していると、ふと気づけばもう1時間ほど経っていた。
午前6時を過ぎた頃、妻が起きてきた。
「暖かくて助かる」と言った後に「おはよう」と声をかけ、キッチンに立ち、ケトルに水を入れて湯を沸かし始める。
我が家にはコーヒーメーカーはない。
だからハンドドリップでコーヒーを淹れる。それも我が家の当たり前の朝の風景だ。
休日なので、保育園に送る必要もなく、慌てることもない。
コーヒーカップを二つ持って、妻もリビングの椅子に腰を下ろす。
私が本に夢中になっている間、妻は特に話しかけることはない。
窓の外の山並みを見つめながら、静かに朝の時間を過ごしている。

午前6時半頃になると、北アルプスを覆った雪が、東から昇る朝日に照らされて色づき始める。
最初は濃いブルーの山並みが、淡いピンク色に変わり、やがてオレンジ色へと移ろう。
山の陰影も次第にくっきりとして、刻々と表情を変えるその変化は、ほんの数分のドラマのようだ。
それを二人で静かに楽しむのが、冬の早朝のひととき。
妻と同じ時間を、ゆっくり味わう夜明けの時間。
そして子どもたちが目覚めれば、家の中はにぎやかな家族時間に切り替わる。
我が家の休日は、こうしたいくつもの心地よい時間でできているのだ。