家族が元気でいるために
暮らす人それぞれに「暮らしのカタチ」があります
暮らしごこち物語

Case 04. 家族が元気でいるために

⻑野県松本市

暖かいってあたりまえ?

パッシブハウスという⾔葉をご存じだろうか?
私が主⼈からこの⾔葉を初めて聞いたのは3年くらい前のことだった。
その頃、私のお腹の中には⾚ちゃんがいた。
主⼈と⼆⼈でアパート暮らし。いつか⾃分たちの家を建てようねと構想を伝え合ってきていた。
その構想はどちらかというと漠然としたイメージでしかなかった。
「友だちや家族とかたくさん呼べる、集まれる家にしたいよね」
「庭でバーベキュー⼤会を定期的に開催したい」
「リビングは⼦供が⾛り回れるくらい広いのがいいなあ」
「キッチンは対⾯型ね。料理していても部屋が全部⾒渡せるのがいい」
「家でも仕事ができるように書斎は欲しいなあ」
「電気代がかからないように太陽光はつけて…そうそう、何より暖かさと涼しさを両⽴できるような家」

きっと家をこれから建てようと考える⼈たちは、こんな会話をしているんだろうなと思う。
そして決まって出てくるのは「暖かい家」というもの。
特に信州の冬は⻑くて、10⽉の終わりくらいには暖房器具が動き出す。
春先もゴールデンウィークくらいまでは朝と夜は暖房が必要なくらい。
冷やすよりも温めるほうがエネルギーを多く使うという話を聞いたことがあり、ここ数年の燃料代の⾼騰などを考えるとアパート暮らしの光熱費の⽐ではないだろうと想像して怖くなる。
「⻑野県⼈は…というより⽇本⼈は我慢することに慣れている⺠族だと聞いたことがあるよ」と主⼈。どうしてだろうと思う。
今まで無意識でいたけれど、暖かいほうがいいに決まっている。健康のためにもね。
そんな当たり前と思えることがなかなか難しいらしい。
エネルギーをガンガン使って強制的に温めることはできるだろう。予算を度外視すれば。
しかしファンヒーターの温かさやエアコンの暖かさってどこか不⾃然。
冬場は特に乾燥が如実に現れる季節だ。暖房器具を使っている場所しか暖かくならないから家の中の温度差

陽だまりの空気に包まれて

朝、⾃然に⽬が覚めた。ちょうどいい時間に⽬覚まし時計がなる前に⽬覚めると気分がいい。
部屋の中は昨夜の暖房の熱がまだ残っているように暖かい。
寝室から階下に降りて窓を開けて外の空気を⼀瞬だけ⼊れる。
「寒っ!」痛いような冷気を感じる。吸い込んだ途端⿐の中が痛くなるような信州の冬の冷たさ。
それでも⼀度⼤きく深呼吸すると意識がシャキッとした。
エアコンのスイッチを⼊れると、吹き抜けの2階の⾼さに設置したエアコンが静かに運転を始めた。
新しい家が完成したのは昨年の10⽉。
冬に間に合ってよかったと主⼈は喜んでいた。
⽇中は陽射しがあれば暖かいけど、朝と夜は少し肌寒いという季節。
そして今は2⽉、この家で初めての冬を過ごしている。

設計前に主⼈が⾔っていた「パッシブハウス」。
私は専⾨家ではないけれど、そんな私に主⼈は何度も説明をしてくれた。
「暖かい家にしようとしたら⼀⽇中陽射しがあるように⼤きな窓があるといいよね。」
「でもそれだと夏はサウナみたいになるんじゃない?」
「夏は部屋の中まで陽が⼊らなければいいよね。明るいけれど直射⽇光が⼊らないようにさ。」
「そんなことできるの?」
「この地域の夏と冬の太陽の⾼さを読んで、ちょうどいい位置にひさしを持ってくればいいんだよ。」
「あとは窓にもいろんな性能のものがあるから、断熱性能に優れたものを選ぶ。それ以外にも断熱材とか機密性とか⾊々あるみたい。」
どうやらさまざまな⼯夫を複合的に組み合わせて、独⾃の基準に達するように住宅性能を⾼めた家のようだ。
理屈はよくわからないけれど、⾃然な暖かしさや夏の快適さが⼿に⼊るのであればいいなと思った。
午前中に主だった家事を済ませてほっとひと息をつく時間。
⼤きな窓から外を眺めながらお茶をいただいている。
まだ太陽は低い位置を動いている季節なので、窓からの陽射しがポカポカと⼼地よい。

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菜園スペースは誰のもの?

季節が過ぎて初夏を迎えている。
新しい家を建てたら何をしたい?という問いに主⼈が描いたことは家庭菜園だった。
南⾯に広がる庭には芝⽣を植え、さらに⼀⾓には菜園スペースを設置した。
⼟を掘り返して、腐葉⼟を混ぜながら耕す。
この作業は春先から休⽇に主⼈が楽しみながらやってきたこと。
ゴールデンウィーク前には園芸店に⾏って、野菜の苗といくつかの種を買ってきた。
四⾓いスペースの中で、ミニトマトのスペースとズッキーニのスペース、ナスのスペース…と区画を分けて苗を植えていた。
植えたばかりの時は幹も細くて⾬⾵で折れてしまうんじゃないかと思ったけれど、⽇に⽇に成⻑し太くしっかりした感じになっていく。
その様⼦を毎⽇観察することが楽しみになっている。
苗ではなく種を蒔くところから始めるニンジンに⾄っては、初めて芽が出た時の感動はすごかった。
吹けば⾶ぶような⼩さな種を、指先でわずかに作った窪みに沿ってパラパラと蒔いただけ。⼩学校の頃、朝顔を育てたことはあったけどその時は指の第⼀関節くらいまで⽳を作って種を植えたはず。
本当にこんなので⼤丈夫?と夫に訊くと「⼤丈夫、そう書いてあった」と夫の知識も本かららしい。
1週間が過ぎ2週間が過ぎた頃、よく⾒ると⼩さい芽が出ていた。
「⽣きてるんだー」という謎の感動。そこからは葉をつけて⽇増しに伸びていく。
娘が「いつになったら獲っていいの?」「あとどれくらい?」と訊いている。
「ミニトマトはあと2週間ぐらいかな、ナスは1ヶ⽉くらいしたらだね」
「トマトにはあまり⽔をあげ過ぎないようにね。⽢くなくなっちゃうんだって」
そんな会話を夢中でしている。
「僕、毎⽇お⽔あげるよ」「早起きしてやるから、その係ね」息⼦も嬉しそう。

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⼈呼びが⼤好きな私たち

この家を建てるにあたってもう⼀つ思い描いていたこと。
それはたくさんの⼈が遊びにきてくれる場を作ることだった。
これもアパート暮らしでは難しく、我慢していたこと。
「友だちを呼んで、バーベキューをやりたい。2家族ぐらい呼んだら12⼈ぐらいかなぁ」と主⼈。
そんな夢が初夏の休⽇に実現した。
⼦どもたちはすぐに打ち解けて、広いリビングで遊んでいる。
⼦どもが⾛り回れるリビング。うん、これもイメージ通り。あとが⼤変そうだけど…。
庭ではデッキに⼤⼈等が腰掛けてビールを美味しそうに飲みながら⾁を焼いている。
それぞれ普段は仕事を持っているけど、こんな休⽇は⽴場や役割を⼿放して和気藹々とやっている。
午前中から集まってきて今は⼣⽅16時半を少し回ったところ。
具体的な⽤事があるわけでもないのに飽きることなくいつまでも会話が尽きないのはどうしてだろう。
友だちっていいよね。
さてそろそろお開きという頃。みんなで洗い物を⼿伝ってくれてサッと⽚付けは完了。
実はウッドデッキの下は収納スペースになっていて、こうしたリクリエーションの道具も綺麗に収まるようになっている。
この空間も設計⼠さんにリクエストしていたのだ。バーベキューやる気満々だったね。
この調⼦だと夫は毎⽉やろうと⾔い出しかねない。まぁ私も賑やかに⼈が集まるのが好きだからいいんだけどね。
幾つになっても⼀緒に遊べる仲間や友だちがいるって財産だと思う。これも幸せなこと。
少し前には、私の両親も泊まりがけで来てくれた。
孫の顔を⾒に来てくれたのだけど「ここは居⼼地がいいね」と気に⼊ってくれたようだ。
普段は⼩さな⼦⼆⼈と夫だけだから、こうして時折誰かがきてくれると家の中が賑やかになって嬉しい。
決まって我が家に来てくれた⼈は、南⾯のウッドデッキに腰を下ろしてのんびりした顔を⾒せてくれる。
陽当たりが良くて、少し緑の⾹りがして⼼地よいみたい。
そしてポツリポツリと取り⽌めもない話や近況などを話してくれる。
我が家のリビングとデッキは、⼈を繋いでくれるような不思議な場所なのだ。

デッキをそよぐ⾵

今⽇、⼟曜⽇の午前中は、主⼈の仕事関係の⼈が我が家を訪れていた。
さっきお帰りになられて「お休みの⽇なのにごめんなさい」と随分恐縮されていた。
その割には随分⻑くいらっしゃったけど…ちょっとしたお話に⾒えただけのはずなのに。
まぁ、それだけ居⼼地が良かったのだろうと解釈しておくことにする。
6⽉中旬、晴れた⽇は本格的に暑く感じる。
しかしこの家は、⼀歩中に⼊るとひんやりした感覚。
吹き抜けの上の⽅に設置したエアコン1台で建てもの全てをまかなえるのだ。
窓が⼤きく、室内はとても明るいのに直射⽇光が⼊らないから充分涼しい。聴いてた話の通り。
この後は昼⾷の⽤意をしなければ…と、庭に⽬を向けると夫と息⼦が菜園で何やら話をしている。
⼆⼈でデッキに戻ってくると⼩さな収穫を⼿に持っている。
⾚く⾊づき始めたプチトマト。
「まだ早いとは思ったんだけどさ、⾷べれるかなぁとこいつが⾔うから試しにどんな味か⾷べてみようって⾔ったんだ」「きっと味がしなくて不味い〜って吐き出すかも」と笑って⾔う。
「お腹壊しても知らないよー」って娘が⾔ったら「⼤丈夫だもんっ」と息⼦。
キッチンから冷えた⻨茶を持ってきて⼿渡す。
息⼦は泥だらけの⼿のままグラスをつかむと⼀気飲み。
私も⼀緒にデッキに腰を下ろしてふーと⼀息ついた。
特に話題もなく、時折夫と息⼦の顔を⾒て、くすりと笑う。
「どうした?」「何でもない、平和だなぁと思って」「それが⼀番!」
デッキでくつろぐ私たちの前を気持ちのいい⾵がサーっと吹き抜けた。
もうすぐ本格的な夏になる。

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